"Zephyr"を聞いて

 今年になってからオペラのCDを聞いている。最初は「昔聞いたよな」くらいの懐かしさで始まったのが、古い録音なら安いこともあって大人買いしているうちにだんだんエスカレートしてしまい、最近はなにかしらの演目を毎日全曲聞くという日課になってしまった。さすがに食傷気味。ちょうどこういう時に札響ヴァイオリン首席奏者の大森潤子さんのCDが発売になった。重厚長大なオペラが続いているとこの小品集が胸に染みた。

 

 最近のヴァイオリンの演奏や録音を聞いていると弦の音が細くて鋭い人が多いなと感じていた。そういう音だとテクニックの冴えが際立つのだが、どうも神経質な感じに聞こえて気になっていた。その点、大森さんのヴァイオリンは適度な厚みがあっていかにも弦楽器を聞いているという気分になる。毎年行われているバッハの無伴奏のリサイタルの時は、会場が礼拝堂ということも大きいのだが、この曲を聞いていて時に感じるささくれ立った音色が中和されて曲の素晴らしさを素直に受け止めることができる。もっともこう書いたからといって鈍重な演奏だとは思わないでほしい。このアルバムのタイトルになっているフバイの「Zephyr〜そよ風」を聞いていただければその名のとおり軽やかにいろいろな音色を取り混ぜて弾かれているのが分かると思う。

 

 大森さんの演奏は札響を始めとして室内楽やリサイタルを聞いてきたが、とにかく音楽を奏でる情熱に満ちていて、聞いていて楽しい。周りの奏者をぐいぐいと引っ張っていくほどの気迫があるように思えた。実はこんなところはこのアルバムのブックレットに指揮者の高関健さんが寄稿していて、私がどうのという以上のことが書かれている。私としてはやはりそうなんだなあと納得した次第だ。

 

 このアルバムを聞いて一番印象に残ったのは「ツィガーヌ」で、とにかく気迫がこもっている。もちろん乱暴に弾いているというのではない。聞いていると10分強の中でいずれも難技巧な楽想が次から次へと繰出され、的確に弾き分けていくのはたいへんだろうと思う。これを様々な音色を使い分けてちゃんと弾いていく様はなかなかのもの。しかもただ正確なだけでなく、曲の持つ生命力みたいなものまで伝わってくる。凄いと思った。あと、「歌の翼に」と「アヴェ・マリア」のロマンチシズム。美しい旋律がきれいな音色で流れてお終いでなく、歌に何か切実さが込められているように聞こえる。ちょっとしんみりする演奏だった。解説によると大森さんの出自はフランス=ベルギー派のようなのだが、こういうドイツものも素晴らしい。2年前のリサイタルでのベートーヴェンソナタは堂々とした見事なものだったと思ったのだが。

 

 こうしてイギリスからロシアとヨーロッパを横断し、果てはアメリカにまで及ぶ様々な曲を聞き終えるとノスタルジックな気分に満たされる。ヴァイオリンの小曲集ってどうしてこんな気分にさせられるのだろう。子供の頃耳にしていていたのかな。

  

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