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フレデリック・バック展を見て

 先日、札幌芸術の森美術館でフレデリック・バック展を見てきた。多様なジャンルにまたがる膨大な作品について書いていったらキリがないので、ここは音楽関連で紹介する。

紹介されている範囲では、作家と音楽の結びつきは強いものはないように思える。しかし、作家と音楽は彼が誕生する以前から関わりがある。というのは、作家の父親はプロの音楽家だったのだ。サン・タルヌアルド村からストラスブールへ、そしてとうとうラジオ・パリ管弦楽団でティンパニストの職を得てパリに移り住んでいる。

しかし作家は絵画の方に夢中になっている。 2歳の時から絵を描き始め、「スレートに漫画を描くことに何時間も費やし、下まで描いたら上の方を消して描き続け、疲れも知らずにこれを繰り返した。」というし、師のメウ教授から「日々姿を変えていく世界をよく観察し、すべてのものを描きとめ、記録せよ。」と教えられ、そのとおりその後スナップ写真を撮るように絵を描き続ける。転機はカナダへの移住。そこで結婚し、生活のためにいろいろな職につき、とうとう1952年にラジオ・カナダに勤め始める。ここで番組の美術を担当することになり、絵だけでなく撮影のセットの作成を手がけ、とうとう黎明期のアニメの制作に乗り出す。

1954年から「コンサートの時間」という音楽番組を担当し、イラストやアニメーションを製作しているとあるが、それらの作品は紹介されていなかった。わずかにこのときの「オーケストラ」という楽団を後方斜めから描いたスケッチが展示されていた。次にあったのがヨーロッパに研修に行き、ザルツブルグモーツァルトの生家を訪れた際のもの。1963年当時はまだ展示物がなかったようで、ガランとした室内風景の絵だ。

お次が1971年になる。なんとストラトフォード祭の音楽のプログラム表紙を手がけている。エッチングのような黒を背景に白の線で宮廷衣装のような服を着た人物をスペースいっぱいに描いたものだ。私にとってこの作品が一番気になった。この音楽祭では若かりし頃のグールドがレナード・ローズらとベートーヴェンなどを演奏している。制作年からするとグールドはとっくにコンサートを離れているが、1960年前後ではどうだったのだろう。何らかの関わりがあったとすれば面白い。そう作家はピアニストと同国人なんだ。ただし活躍した場は作家の方がラジオ・カナダだし、ピアニストはCBC 。違う団体なのかどうかわからないが、作家はおそらくフランス語圏、ピアニストは英語圏のトロントだから多分違うと思う。放送局に深く関わり、いずれも放送局で先端的な取組みを行った二人はそれぞれ相見えるとか、相手を意識するということはなかったのだろうか。

次に出てくるのが1998年のその名も「ラプソディー・イン・ブルー」。ピアニストが演奏する姿と鍵盤を渦を巻く煙のように表現したポスター風の絵。音楽そのものをテーマにした絵というとこれだけかもしれない。

カナダ大使館では日本で一番有名なカナダ人はグールドではないかと囁かれているという。「クラック!」「木を植えた男」などの偉大なアニメ作品により 、もう一人フレデリック・バックを加えてもらっても良いのではないかと思う。宮崎駿高畑勲におそらく思われている以上に大きな影響を与えていて、このたびの展覧会で大々的に紹介されたのだから。

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