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グールドのレガート

 バザーナによるグールドの伝記によると、彼のコンサートは聴衆を陶然とさせたという。アメリカでも、ヨーロッパでも、ロシアでも聴衆は熱狂した。これを読んでいて不思議に思ったものだ。録音で聞く限り、そういう反応が理解できなかったのだ。まるで太く、つなぎが少ないぼきぼきのそばを食べているような感触のピアノ。ノン・レガートのバッハを聞きつけていた私にはちょっと想像できない現象なのだ。
    しかし、2枚のライブCDを聞いてわかった。1枚が1958年のストックホルム・ライブ。ベートーベンの第2ピアノ協奏曲があるのだが、とりわけ第3楽章がすごい。速いテンポで弾かれているのだが、ただ正確なだけでなく、見事なレガートで演奏されている。これもバザーナがいうグールドの「ピアニストなら人を殺してでも手に入れたい」レガートなんだと納得した。もう1枚はバーンスタインとのブラームスの第1ピアノ協奏曲。グールドがメロメロになって弾いている音楽を聞くとテンポは別として確かにその陶酔が伝わってくる。
   こうしてライブの演奏を聞いてみると、録音で聞く彼のイメージと全く別だ。この違いをこう喩えてみた。グールドは女性でいうときっとこういう人なのではないか。ものすごい美人でスタイルも抜群。男ならだれしも見惚れてしまう女性なのだが、本人はいたって不満。私は外見で評価されたくないの。私がどのくらい知的な人間なのかそこを評価してほしい、と。美しい髪をバサバサにし、服はボロボロのオンボロを着る。口を開けば、時折ユーモアも混ぜてみるが、小難しい話ばかりで、それはそれでみんな耳を傾けて聞いてはいるが、でも本心ではなんであんな美人なのに、あんな格好しているんだろうね。普通にしていたほうがよっぽど素敵なのに。惜しいね、と。

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