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運命のジャケ買い

 初めてグールドを知ったのは「インヴェンションとシンフォニア」のLPでした(写真はCDのもの)。クラシックを聞き始めたばかりだったとき、母が練習する際の参考にするために、私に買ってきてくれと頼んだのがきっかけになりました。とはいえ、どのレコードにすればよいのかわからないままレコード店で探してみました。その曲のLPは3、4枚あったと思います。どれにすればよいか1枚1枚ぱらぱらと見ていて、そのうちの1枚、演奏者本人だろう顔写真のジャケットに目を留めました。(妙な趣味はないのですが)ジャケ買いでした。

 帰ってすぐかけたのかどうかははっきりしませんが、憶えているのはスピーカーから音が出て、それを聞いた母が「こんなのバッハじゃない」と怒りだしたことです。弾いたことがあった母にしてみればとんでもないテンポで弾かれているのを聞いて仰天したのだろうと思います。でも、私は魅了されました。いっしょにいた弟もそうでした。どこがよかったのかというと、とにかく音がいっぱい聞こえてくる、ということでした。ピアノの音が豊かで、いくつかに錯綜して聞こえてくる。これがひどく気に入りました。ジャケットを見ると、ピアニストの宮沢明子さんがライナーノーツを書いていて、この演奏がお手本になるものではないが、自分は好きだというようなことを書いてあり、どうも正統的は演奏ではないことを知ったのでした。しかし、この後「ゴールドベルク」「平均律」「パルティータ」などを聞いていくことになりました。

 グールドのどこが好きなのかと考えると、さきほど「音がいっぱい聞こえる」と書きましたが、それと同じくらい好きなのがピアノの音です。グールドというと、ノン・レガートのぽきぽきしたピアノというのが通念になっていますが、そうであっても音そのものはふくよかというのか、ちょっと厚みと丸みがあるように聞こえます。録音によるものかもしれませんが。(録音といえば、グールドの録音は60年代のものであってもかなりいいと思っています。今、聞いてもそれほど古さを感じないというか、生々しく聞こえます)実はグールドに関する数ある著作の中でCBSのプロデューサーだったアンドルー・カズディンのものはなかなか興味深い逸話が多いのですが、その中のひとつにグールドのピアノの音のことがあります。グールドは自分の望む音を出すためにピアノを改造することで有名でしたが、その副作用で奇妙な音が出るようになりました。別の音が重なって響くようになったというのです。これを「しゃっくり」と呼んでいたのですが、録音の時はこれでは具合が悪いということで取り除く作業をしたといいます。私が聞くかぎり、この「しゃっくり」が一番顕著な録音が「インヴェンション」だと思っています。私にとってグールドの魅力は「音がいっぱい聞こえる」とこの「しゃっくり」だということになります。グールドのピアノ音については、またあらためて。

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